2007年07月26日

第7章 外国為替相場を予測してみよう-10

10 実際に相場を予測してみる

 簡単におさらいをしておきましょう。
 「変化」か「変態」かという話を述べましたが、シグナルが本物かどうかをトレンドとサイクルを組み合わせて考えてみます。定量よりも定性的な判断を心がけます。
 発想の転換も大事です。情報を集めようとただ聞いているよりもブレーン・ストーミング形式で誰かと対話をしていくほうが自分の考えがまとまってくることがあります。
 また、いくつかのシナリオをつき詰めて考えていく必要があります。「原油が急騰したら外国為替相場は……」などのアクシデントもメイン・シナリオと併せて想定しなければなりません。

第7章 外国為替相場を予測してみよう-9

9 テクニカル分析とは何か

 市場は外部要因ばかりでなく、内部要因でも動きます。これは、相場変動の理論や板説からは予測できないものです。
 したがって、相場変動を観察するなど、ファンダメンタルズとは別の方法で市場にアプローチすることも必要となってきます。
 特に、外国為替相場がファンダメンタルズから遠い分(他の相場と比べると、変動要因が入り組んでいて複雑なため、結局ファンダメンタル分析の有効性は相対的に低いと思われます)、そういった視点は不可欠です。
 以上が、外国為替相場でテクニカル分析が必要となる背景です。
 紙幅の関係もあり詳細は述べませんが、テクニカル分析とは、一般に過去の価格から現状を分析し、将来を予測することです。
 テクニカル分析は、デンジャー・ポイントが把握でき、心理的にも安定することができる、汎用性、普遍性が高いなどの特徴があります。相場を総合判断するのに欠かせない手法だと思います。

 テクニカル分析は、価格の分析とそれ以外の指標の分析に分けられ、価格の分析はさらにトレンド系とオシレーター系に分けられます。
 また、相場変動の周期性を解析するタイム・サイクルなどもテクニカル分析の技法の1つです。
 テクニカル分析は、ファンダメンタル分析と対立すると思われる人も多いようですが、私はそうは考えません。
 『宗論』という狂言があります。2人の僧が宗旨の違いを言い争うものですが、結局、目指すものは同じと理解しあえるというものです。テクニカル分析とファンダメンタル分析もそういう関係かもしれません。

第7章 外国為替相場を予測してみよう-8

8 材料はファクター・ローテーション

 これまで、相場変動の読み方について説明してきましたが、どれも一長一短があります。それでは、私たちは何を信じたらよいのでしょうか。
 私はファクター・ローテーションという考え方をします。
 株式相場の言葉にセクター・ローテーションというのがあります。金融セクターの次は○○のセクターが買われる、ケミカルの次は○○セクターが上がるというのがセクター・ローテーションで、市場参加者が買い推奨のセクターを順番に選んでいくというものです。
 材料にも流行りすたりがあるのです。私はそれを、セクター・ローテーションをもじって、ファクター・ローテーションと呼んでいます。
 ある時は経常収支、ある時は金利差、ある時は当局の発言と、歌謡曲のヒット・チャートのように外国為替ディーラーや業界の人たちはそのときどきのベスト1(最も大事な要因)を選択しているようです。おそらく市場参加者はマーケット材料をファクター・ローテーティングして、たとえば、いまは経常収支が注目される時代なのか金利で動く時代なのかといったことを見極めているのだと思います。皆と違うものを選んだ人は負けてしまいます。

 ファクター・ローテーションでも、ひとりよがりになってしまうと、チェリー・ピッキング(いいとこ取り)となり、相場を見間違うもとになってしまいます。
 繰り返しになりますが、大事なポイントは「他人が他人の予測をどう予測すると思うか」です。「こう考えるべきだ」「私はこう思います」というのはさほど大事ではなく、1つの判断にすぎません。
 自分の意見が大事なのではなく、今後の相場動向を隣人がどう思っているか、また、自分がどう思っていると隣人が考えているかを読むことです。

第7章 外国為替相場を予測してみよう-7

7 思考経済の法則とは?

 思考経済の法則とは、ある現象から起こり得るシナリオが2つ考えられるとき、人々は単純なほうを選んでしまうというものです。
 たとえば、ある国の金利が上がるということは、その国の債券価格が下がるということになります。インフレも考慮しなくてはなりません。しかし、マーケットでは、インカム・ゲインが増える、と単純に考えるのが一般的です。
 イタリアの社会学者パレートの8割2割の法則というのがあります。たとえば、ある事柄を知る目的で、10冊の本のなかから良書といわれている2冊を読めばその事柄の8割を理解できる、あるいは、会社の2割の人が8割の利益を稼いでいる、といった状態を示す言葉です。
 市場には、経済指標、噂、軍事的紛争、当局者の発言、その他いろいろな情報が飛び込んできますから瞬間的に判断しなければなりません。瞬時の判断には5つ程度の要因で十分です。要因を細かく探せば200個以上見つかるでしょうが、逆に判断がし難くなるでしょう。
 ということは、私たちは瞬間的に判断することで暗黙のうちに思考経済の法則に従っていることになります。

第7章 外国為替相場を予測してみよう-6

6 マーフィーの法則とは何だろう

◆ マーフィーの法則
 本当かもしれないし嘘かもしれないという法則もどきがマーフィーの法則です。
 たとえば、「パンにジャムを塗って床に落とすと高級絨毯ならジャムがくっついてしまうが、安価な絨毯ならくっつくことはない」というようなものだといわれますが、もともとの意味は少し違うようです。
 マーフィーの法則は、物事の不条理などに関する一連の警句、経験から生まれた種々のユーモラスな知恵です。井上ひさし氏の本では『諺よりはやや合理的であるが、科学上の法則よりはずっと不合理な法則もどき。仕事の進め方や時間管理や組織づくりについての、ユーモラスな警句。科学者や技術者や実務家の信じているらしい、あまりあてにならぬ法則』と紹介されています。
 外国為替相場の理論や仮説、材料の解釈もマーフィーの法則に近いと思います。
 たとえば、かつて「有事の際のドル買い」ということがよく言われました。理論的に正しいかどうかは別にして、軍事的紛争があったらドルを買えばよいと皆が思っていました。これもマーフィーの法則でしょう。
 これらは時代とともに、見方が変わってくることもあります。たとえば、「有事の際のドル買い」も、ソ連の崩壊後は言われることはなくなりました。
 「財政出動して景気を刺激するという国の通貨は『買い』か『売り』か」という問いに対する答えは、人によって異なると思います。おそらくその国の景気はよくなるので「買い」だと思う人が多いでしょう。
 米国のGDP成長率が増えた場合、私たちはドル買いを発想します。昔の本を見ますと、答えはドル売りになっています。これは本が間違っているのではなく、当時のセオリーがそうであったことを示しています。

 現在では、日本が財政出動を積極的に行った場合、円が買われると考える人が多いと思いますが、昔の理論ではそうではなかったというわけです。
 なぜなら、財政を出動しないと景気がよくならないような国は、ゆくゆくはインフレが起こり、その国の通貨は「売り」だと考えられていたわけです。インフレになる国の通貨を買うのはおかしいのです。現在と答えがまったく違うのは20~30年前に皆の認識が変わったためなのです。それまでは「売り」だったセオリーが「買い」に変わったわけです。これは端的な例ですが、どちらが正解かは別として、流行の考え方についていくことも大事だと思います。

第7章 外国為替相場を予測してみよう-5

5 高橋亀吉の相場哲学を学ぶ

 表は高橋亀吉の『私の実践経済学』(東洋経済新報社)などからの要約と私なりの簡単な解説です。彼のフィロソフィー(相場哲学)から学ぶことはたくさんあります。予測する際に参考となると思いますので、いくつかを紹介しておきます。

◆ 経済理論は変化する
 時代が違えば経済理論は異なってきますが、経済理論は変化すると思っていない人がいます。「過去のケースからすれば今回も……」と考えすぎるのもよくありません。
 環境の変化に応じて柔軟な考え方をする必要があります。

◆ 理論は本ではなく現実から学ぶ
 高橋はアダム・スミスになったつもりで観察し、考えました。前述のように、私も当事者の立場で考えることにしています。

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第7章 外国為替相場を予測してみよう-4

4 マーケット予測をするときの注意点

 予測し取引をしていくうえで、意外に大切なのがマーケットと自分との距離感です。それがマーケット予測の際にも、取引の際にも大きく影響するからです。

◆ 思考体系(マーケットの認識)
 自分がマーケットに対してどのような認識をしているのかを自覚しているでしょうか。マーケットはファンダメンタルズで決まる、米国の思惑で決まる、あるいはユダヤの思惑で決まる、などいろいろな考え方がありますが、自分がどのような考え方で予測しているかを明確に意識することは重要です。

◆ 目的の明確化、スタイルの確立
 「どうして、この方針をとったのか」というのが途中で変わってしまうことがあります。自分はテクニカル・アナリストとしてテクニカル分析で買いポジションをとったのに、相場が下がり始めると突然ファンダメンタルズはまだ上がるはずだなど、それまでと違う発想をして自分をごまかしてしまう人がいます。こうしたことが起こるのは、まだマーケットを予測するスタンスが自分でもよくわかっていないからです。自分のスタイルをよく理解していないためにこういうことが起きてくるのです。
 売買するときは、自分が何を思ってそれを売買するのかを記録につけておくことです。

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第7章 外国為替相場を予測してみよう-3

3 相場予測とは何だろう

◆ 相場変動を読むとは?
 予想の目的は人によって違います。有名な人の発言であっても鵜呑みにしてはいけません。
 昔、ドルが高かったころ、ある研究所が1ドル=120円になった場合のシミュレーションを出しました。その報告書は、1ドル=120円になったら日本経済はダメになってしまうというもので、だから1ドル=120円という円高はあり得ないと結論づけました。たまたま120円という水準を提示しただけで、円高予測をしたわけではありません。その研究所が円高を当てたとするマスコミは不勉強だと思います。
 では、いったい何を信じればよいのでしょうか。発言者の真意を考えることです。彼はポジションを持っているために引きずられているのかもしれないからです。はずれかかっているのを承知しながら、立場上、同じことを鸚鵡返しにいっているにすぎないのかもしれません。
 相場は、社会現象が対象です。たとえば、自然科学は試験管のなかに実験対象があって観察者はそれを外から眺めていますが、社会科学は観察者自身も試験管のなかに入ってしまいます。ポジションを待ちながら問題を考えていきますから、自らの立場の影響が予測に出てしまうのです。デルフォイ法がコントラリー・オピニオンとして使用できるのもそのためです。

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第7章 外国為替相場を予測してみよう-2

2 予測とは何か

 予測にはいろいろな手法がありますが、大きくは、投影法、類推法、計量法に分けることができます。投影法は投影して考えていく方法で、類推法は類推して考えていく方法、計量法はこれらの合わせ技になります。以下、それぞれを簡単に説明します。

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第7章 外国為替相場を予測してみよう-1

 外国為替ディーラーやマーケットエコノミストは外国為替相場をどのように予測しているのでしょうか。ここでは、相場を予測するにはどのようにすればよいのか、実践に即して説明します。

1 実践・マーケット予測

 ここでは、教科書的な話にとどまらず「実際にどのように予測しているのか」ということを述べたいと思います。
 経済学は社会科学ですが、相場はさらに社会科学的です。どういう意味かといいますと、自然科学のように割り切れないために、「本当にそうか」ということが頻繁に起こるということです。
 たとえば、米国が金利を上げた場合、金利が上がるからドルを買うという意見も出れば、債券が売られるかもしれないからドルを売るという意見も出てきます。このときにどちらをメイン・シナリオと考えるか、ということがポイントになってくるのです。
 「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、シナリオはさまざまに描けるわけです。

◆ よい予測をするには?
 「よい予測をするにはどうすればよいのですか」という質問をよく受けます。私は2つの答えを用意しています。
 1つは「よい予測をしようと思うこと」です。いい加減な気持ちで予測が当たるほど相場は甘くありません。もう1つは「かわいい人であること(愛嬌があること)」です。別に、媚を売れと言っているのではありません。ただ、何か価値のある情報を伝えようとするとき、生意気な人間に対してはその気にならないからです。かわいくない人は情報収集の点で劣るということです。